こんにちは、Kanon です。今回は…
しめさば先生の『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 三島柚葉』の感想記事です。
「ひげひろ」の本編を彩るキャラクターたちにハイライトを当てた後日談ですね。
本巻単体で読んでも話は分かると思いますが、やはり本編を読了後に読むことをお勧めします。
今巻の主役である柚葉は、主人公・吉田の会社の後輩で、吉田に対して好意を持っています。
今巻では、本編終了後の吉田と柚葉の関係の変化について描かれますのですが…
詳しく見ていきましょう。
しめさば先生の他の作品についてはこちらの記事でも触れておりますので、ぜひご覧ください!
あらすじ
片思いの相手・吉田の家に同居していた女子高生は北海道に帰った。
表面上普通を装うが、どこか気が抜けている吉田。
いつまでも鈍感な彼に焦れた三島は、強引にその唇を奪って…。
三島柚葉の恋の終わりを描く、外伝。
『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 三島柚葉』 しめさば 角川スニーカー文庫 2021年12月1日 発行 より引用)
ネタバレなし感想
twitterのネタバレなし感想はこんな感じでした。
ネタバレ記事では、柚葉が新しい物語を始めるまでの心情の変化を主に語りたいと思います。
ネタバレあり感想
自分の物語を見つけられずにいた柚葉
柚葉は"自分の物語"というものに憧れつつも、自分の物語を生きることを避けてきました。
ただ、内心では憧れているからこそ、他の人の物語を覗いては、自分の断片的な経験とつなぎ合わせることで他人の物語に心だけは入り込んでいく。
他人の嫌なところを見ないように、見てしまったら受け流すようにして生きてきた。
そうすることで柚葉のことを誰も見ないようになった。
けど、吉田は柚葉がどれだけ受け流そうとも柚葉に関わり続けた。
そうすることで柚葉はこれまで受け流してきた人とのかかわりあいの中に無理やり立つことになり、"自分"の位置を認識するようになった。
そんなきっかけを与えてくれた吉田のことを好きになったのではないかと思います。
キス
今作の中では柚葉は2回キスをします。
1度目は、自分の気持ちを伝えるためのキス。歯のあたるような乱暴なキスでした。
けれど2度目のキスは、柚葉の1度目の恋物語を終えるためのキス。
そのためには、普通のキスではなく、この失恋の物語をきれいな思い出に変えるためのキスである必要があったのでしょう。
長く、丁寧に、歯をなぞる様なキスを、柚葉の部屋で、2人きりの空間で、柚葉からします。
柚葉と吉田の二人だけの秘密としてのキスをすることで、柚葉の1度目の物語に綺麗に封をしたのではないかと考えます。
誇りを手に入れた柚葉
これまで柚葉は自分の物語を意識することなく生きていた。
その物語を与えてくれた相手は吉田だった。
しかし、物語はその後も続くことはなく、終わりを迎えることになったけれど、その幕を引くことは自分自身の手で出来た。
柚葉はようやく自分の物語を初めて一つ終わらせられたことに誇らしさを感じます。
けど、物語が終わってしまったことに対する寂しさはすぐには癒えず、柚葉は一人カフェで声を上げて泣いてしまいます…
新しい物語が始…まる…?
カフェで泣いている柚葉に声をかける青年。
青年はハンカチを柚葉に差し出します。
差し出されたハンカチを受け取り、柚葉はこのハンカチをどうするのか考えます。
その場で返すのか、洗って返すのか。
洗って返す、となると当然連絡先もしくは次に会う約束をする必要があるので、この青年と新たな関係を始める必要があります。
ここで柚葉は、「このハンカチどうしよう」と後のことを考えますが、そこで初めて自分が「明日どうしよう」と真剣に未来について考え始め、これまでとは違い、自分の明日について考えていることに気づきます。
思えば、「明日はどうしよう」なんてことを考えることの少ない人生だったと思う。
当たり前のように生活して、当たり前のように翌日が来て。
ラクなことを選択して、ラクに生きてきた。
自分の人生を生きている自覚など、まるでなかった。
今まで目を背けてきたそれを自覚した途端に、胸がいっぱいになった。
『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 三島柚葉』 しめさば 角川スニーカー文庫 2021年12月1日 発行 より引用)
この事実こそが、自分の人生を生きているという証に違いありません。
結局、ハンカチはそのままもらうことになるので青年と新しい物語が始まることはありませんでした(笑)
けど、恋が終わり、次どうしよう?明日どうしよう?と前を向いて、自分の人生をどう生きるべきか考え始めた時点で、次の物語が始まる開演のブザーが鳴っているんでしょうね。
総評
失恋の部分については、結果なだけであって、この物語の本筋ではないとは思います。
それよりも、"自分の人生を生きているのは自分自身"ということを柚葉を通して見せられた気がします。
多くの人がそのことを忘れてしまっているのではないでしょうか?
流れ作業的に会社や学校へ行き、仕事や授業をこなして家へ帰る…というルーチンワークを繰り返すだけ。
それでいいのだろうか?と思いました。
自分の人生をより良いものにするために、明日何をする?
それをいつの間にか忘れてしまった人が世の中にあふれてしまっているのではないでしょうか。
もう一度自分にとって何をするのが幸せなのか?に向き合ってみようと思わせてくれるような良作でした。
以上、 『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Another side story 三島柚葉』 の感想 レビュー ネタバレでした。