こんにちは、Kanon です。
今回は裕夢先生の『千歳くんはラムネ瓶のなか 3』の感想記事です。
2巻ではチーム千歳のメンバーである悠月とニセモノの恋人を演じていた千歳くんでしたが、今回は過去と未来の間でもがく少年少女の物語ということでね。
詳しく見ていきたいと思います。
あらすじ
「君」にさよならを。
6月の進路相談会で顔を合わせて以来、俺と明日姉は学校でも会うようになった。
まるでデートのように出かけることも増え、俺は嬉しい反面……どこか切なさにも似た感情を抱えていた。
それがひどく身勝手なものだということも理解しながら。明日姉は、東京にいく。物語を「編む」人になるために。
『千歳くんはラムネ瓶のなか 3』裕夢 ガガガ文庫 2020年4月22日 発行 より引用)
俺は、笑顔でこの人を送り出せるだろうか――。
前巻(2巻)についてはこちらの記事からどうぞ
ネタバレなし感想
twitterのネタバレなし感想はこんな感じでした。
以降はネタバレを含む感想になるので、嫌な方はブラウザバックをお願いいたします。
ネタバレあり感想
今回もネタバレあり感想に入る前に、ネタバレありで今巻のあらすじを軽く語りたいと思います
あらすじ(若干のネタバレ含む)
2巻にて書店で赤本を手に取る明日風と出くわし、地元に残るか、都会に出ていくかを話していた千歳くん。
今巻ではさらに踏み込んで、明日風の夢が編集者であり、将来のためにも上京したいという意思が明かされます。
しかし、明日風の夢を頑なに認めようとしない明日風の父親。
父親の説得をあきらめて、編集者になりたいという夢を捨て、地元に残ろうとした明日風を、千歳くんは東京へ連れ出します。
初めて見る都会の景色や、福井との違いに終始刺激を受けっぱなしのふたり。
そんななかで、明日風にとって一番の刺激になったのは、昼食のために入ったカレー屋さんで、実際に編集者と作家の打ち合わせの場面を目撃したことでした。
その場面を見たことで明日風は、やっぱり自分は編集者になりたいという決意を固めます。
福井に戻った明日風は改めて父親と蔵センとの三者面談を申し出、最後には必殺の一言。
「お父さんとは口きかない」
で見事、父親を説得することに成功します。
が、その時点で来年からはもう千歳くんと会うこともなくなってしまうであろうことを実感してしまい、泣きじゃくる…
というのが今巻のざっくりとした話の流れです。ちなみにこのあらすじはだいぶ明日風目線でのあらすじです
2巻で語られた千歳くんの初恋の女の子は…
まあお察しだとは思うのですが、明日風だったんですよね。
東京から帰ってきたあと、千歳くんは明日風にもう一度福井でデートに誘われるのですが、デートの行先は過去に初恋の女の子と遊んだ街。
そこで、千歳くんは明日風が初恋の女の子だったこと。
そして二人は両想いだったことを認識します。
「とてもかっこよくて、運動神経がよくて、頭のいい人」というのは千歳くんだったわけですね。
となると、千歳くんは明日風に2回恋していたわけですね。
どこにも高校生になった千歳くんが明日風に恋していると明確に書かれてはいませんが、裕夢先生は絶対に千歳くんが明日風のことを好きという体で書いてるんじゃないかと確信しています。
千歳くんは明日風に言われるまで、初恋の女の子だったということに気づいていなかったようですが、明日風は再会したときから気付いていた模様。
逆もそうなんだと思うのですが、高校生の明日風が千歳くんに恋していると明確に書かれてはいませんが、明日風もまた千歳くんのことが好きという体で書いてるんじゃないかと確信しています。
学年が違うという現実を輪郭が分かるように見事に表現しています
今の時点では、明日風といつかサヨナラする前提で、千歳くんも明日風もいます。
それは2人の学年が違うからで、どうしたって先に明日風が卒業をし、東京へ行けば次の年にはもうほとんど会うことはなくなります。
これまで日常の一場面にいた人が、来年はいない。
意外とそれだけで人の関係って薄くなって、最後にはつながりをなくしてしまうものだよなぁ
というような気持ちにさせられ、また千歳くんや明日風もそんな風に考えていることが表現されています。
けど社会人になった今の自分からすると、確かに学生時代の1,2年の差ってすごく大きいですが、社会に出てからの1,2年というのは誤差でしかなくて、3年以内の誤差であれば同い年な感覚です。
この感覚、多分理屈で説明できると思っていて、要は中・高・大といった多感な期間というのは、年齢差が3~4歳の間の人たちでコミュニティが形成されるから、1,2の差というのは大きく感じる。
1,2年の差というのは、そのコミュニティで過ごす時間の1/4, 1/2を占めてますからね。
けど、社会人になると、40歳近い年齢差の相手ともコミュニティを形成することになるので、1,2年の差というのは、1/40とか1/20くらいの割合でしかないので、学生時代と比べると、1,2年の密度は圧倒的に薄いですよね。
だから、学生時代の1,2年の差というのは大きいという感覚になるんだと思っているのですが、これ、社会人になった今だからわかるのであって、学生時代はそんな風に思えてなかったです。
そして、千歳くんと明日風はまさに"学生の感覚"でもって物事を考えていたり、2人の距離感を感じているので、それを描く裕夢先生パネェ…という気持ちです。
そして、いま理屈で説明したことを、学生の日常風景を切り取りながら、読者に伝えているというのが作家という仕事で、その仕事を高い質で実現しているこの作品は、傑作だと思います。
憧れの女性の本当の姿は、実は過去の自分だった
千歳くんが憧れた現在の明日風は、実は過去の千歳くんのように、自由に生きようと決めた姿であり、過去の千歳くんの延長にあるものでした。
過去の呼び方は、朔兄・君(明日風のこと)だったけど、現在では逆転して明日姉・君(千歳くんのこと)。
このことが過去と現在の対比という効果を物語全体にもたらしています。
基本的に現在のシーンは過去と同じようなシーンを重ねて描かれていて、左耳を触る合図や、明日風を千歳くんが連れ出すシーン、東京へ行く明日風がワンピースで出てきたりなどです。
かつては追いかける側だった明日風が現在では追いかけられる側になったりと、常に過去との対比がそこにはあり、これが一つ一つのシーンをより印象的なものに変えている効果を出しているなと感じました。
徹底考察 : 明日風が正ヒロインではないのか…?
ここまでの語りようで察してくださってるかもしれませんが、私はヒロインのなかでは圧倒的に明日風推しです。
幼馴染で憧れのお姉さんで、自分が立ち直るきっかけをくれた相手を好きにならない意味が分からず、現在進行形で両想いになる要素が一番強いのは明日風だと思っているんですよ。
願わくば千歳くんと明日風がくっつく展開を期待しているのですが、気になることがいくつかあります。
- 現在の千歳くんが明日風のことが好きだというはっきりとした根拠は描かれていないこと
- 明日風の卒業とともに、2人がもう会うことがないような描かれ方をしていること
一つ目に関しては仕方ないですよね。
これを明確に書いてしまうと、チラムネ 完 な展開になっちゃいますもん。
まあ明日風と付き合うことにして、他の女の子たちの悩みは、千歳くんの美学にしたがって解決していく物語というのも面白いとは思いますが…
青ブタのように麻衣さんという正妻がいながら、咲太他の女の子を助けるという例もありますしね。
ただ、その展開が成り立っているのは、思春期症候群と、それに翻弄された咲太の過去という別なテーマがあるからこそです。
チラムネで青ブタのような展開にするためには千歳くんの美学「美しく生きられないのなら、死んでいるのと同じ」を貫くというテーマだけでは、弱い気もします。
なので、今後も明日風は正妻というような展開にはならないような気がしてます。悲しいけど。
そして二つ目について。
まだ完結もしておらず、裕夢先生もなにも語っておらず、書いてもいないので、ただの自分の妄想になってしまいますが…
卒業してふたりが二度と会うことがないなんてこと、その気になれば絶対ないよ!!
ということです。
まあ、作中に書かれていることでもありますが、千歳くん本人が「いまは人生の指針を失っていて、夏休み状態」なので、おそらくなのですが、この指針が決まることが今後の物語の展開に影響してくるんじゃないかと思っています。
例えば…
蔵センの影響を受けて、教師になることを目指すのであれば、別に福井じゃなくても東京で教師になればいいわけです。
そうすれば明日風と別れることもなく、今巻でも描かれたような、千歳くんが明日風を追いかけて同じ大学へ進学するという展開もあるんだと思います。
これは例えの話しなわけですが、とにかく2人が作中の今年限りで「もう会うことはない」と考えているようなことはいくらでも回避できると思うんです!!
つまり何がいいたいかというと…
裕夢センセー!!僕は明日風とくっつく展開が見たいです!!どうかお願いします…!!
総評
ネタバレあり感想では割と今巻のシリアスな部分についてばかり語ったのですが、他にも今巻では胸が熱くなったり、面白くて吹き出すシーンがたくさんありました。
- 「駆け落ちしてくれる?」という明日風のお願いを叶えたり
- 過去に千歳くんが明日風を夏祭りに連れ出したのと同じシチュエーションで東京へ連れ出したり
- 東京の雰囲気に圧倒された明日風がポンコツ化したり
- 千歳くんの過去を優しく明日風が聞いていたり
- 明日風の父親の説得の際、千歳くんがただ土下座でわがままと割り切って気持ちをぶつけたり
- 明日風の父親が千歳くんに対して言った「君が明日風の将来の責任を取れるのか」に対して「自分が責任を取る」と言おうとしたときに明日風が「そんなプロポーズは死んでもごめんだから」と遮ったり
- 実は父親も頑固を演じていただけで、本当は明日風の覚悟を試していたんだとわかったシーンだったり
と印象的なシーンが盛りだくさんで、すべてについて書いてたら、ブログ記事3本分になった挙句、結局小説の内容をなぞって各シーンについて書くことになりそうな感じでした(笑)
なので、他のシーンについてはぜひ読者のみなさまで読んでみてください!
この3巻をもう一度読み返したい気持ちでいっぱいです。というか絶対読み返すわこれ。
以上、『千歳くんはラムネ瓶のなか 3』 感想 レビュー ネタバレでした。