
こんにちは、Kanon です。今回紹介する作品は…

『とらドラ!』や『ゴールデンタイム』などのアニメ化作品を執筆されている、ラノベ界のラブコメ女王!
竹宮ゆゆこ先生の『知らない映画のサントラを聴く』です。

本作『知らない映画のサントラを聴く』は『とらドラ!』『ゴールデンタイム』とは異なり、新潮社から出版されています。
その影響もあってか、文体は『とらドラ!』や『ゴールデンタイム』と比べてやや硬めですが、竹宮先生らしいにぎやかな心理描写は随所に見受けられ、旧来からの竹宮ゆゆこファンは安心して、新規の読者は竹宮先生の独特な表現を楽しめると思います。

以降では詳しく見ていきます!
あらすじ
錦戸枇杷。23歳。無職。夜な夜な便所サンダルをひっかけて“泥棒”を捜す日々。
奪われたのは、親友からの贈り物。
あまりにも綺麗で、完璧で、姫君のような親友、清瀬朝野。泥棒を追ううち、
枇杷は朝野の元カレに出会い、気づけばコスプレ趣味のそいつと同棲していた……!朝野を中心に揺れる、私とお前。
これは恋か、あるいは贖罪か。無職女×コスプレ男子の圧倒的恋愛小説。
『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 新潮社 2014年9月1日 発行 より引用)
こんな人におすすめ!
おすすめポイント
- 竹宮ゆゆこファンの人にはもちろん刺さる!
- ちょっぴり切なさを感じるが、それでもハッピーエンドになっただろうなと感じられる物語を求めている人
- 愚直に気持ちをぶつけるような作品ではなく、じっくり読むことでようやく主人公の恋愛感情を理解できるような、読書への没入感を求めている人
- 人生に行き詰まりを感じていて、先行きに希望を感じたい人
ネタバレなし感想

twitterのネタバレなし感想はこんな感じでした。
以降はネタバレを含む感想になるので、嫌な方はブラウザバックをお願いいたします。
ネタバレあり感想
テーマの一つとして、"回転"
「回転せよ、と誰かが言った。」
という文章で幕を開けるこの作品ですが、随所に"回転"を意識した描写が見受けられます。
子どもの頃の朝野との遊びや、地球、CD、自転車などです。
この"回転"は枇杷や昴の人生そのものを暗喩していて、なにか辛いことがあって立ち止まっても人生は回り続けるということを表現しているのだと思います。
炸裂する"ゆゆこ節"
ゆゆこ節ポイント
- 主人公の錦戸枇杷の実家はデンタルクリニックで、父・母・兄・兄嫁で営んでいるのですが、「パパイヤー先生(父の名前は健治)」「ママンゴー先生(母の名前は秋枝)」「キウイ先生(兄の名前はきうい)」「チェリー先生(兄嫁の名前はちえり)」の愛称で営んでいます。
- 枇杷の相手役として描かれ、朝野の元恋人である昴は、朝野が死んだのち、女装癖に目覚めています。
- 朝野を振ったことを後悔していた昴は息子が自立しなくなってしまうのですが、その現象を枇杷に説明する際に、「ローションでぬれたブーツにカワウソが入り込もうとするも入れない」と表現されます。

どれも竹宮先生の作品を知っている人ならば、「ああ~竹宮先生っぽいな~」となるはずです(笑)
「恋愛小説といわれてるが、そうじゃない」という意見に対して

自分はこの作品は恋愛小説だと思います。
朝野の死に対する後悔
まず、枇杷と昴は朝野の死に対して公開の念を抱いています。
枇杷→ちゃんと朝野の話を聞いておいてあげればよかった
昴→まだ朝野のことが好きだったのに突き放してしまった
本編では、朝野の死因について明確には描かれていませんが、枇杷と昴の認識としては、朝野はおそらく昴に振られたショックで自らを殺めたと思っていることは描かれています。
そして、昴は同じように朝野の死に後悔を抱いていて、朝野から繋がった枇杷を通して、朝野を見ている状態です。
この状態については、本編でもこのようにはっきりと描写されています。
自分と昴の間に挟まって、自分の姿と感触、匂い、体温、存在のすべてを昴の目から覆い隠すような設定上の清瀬朝野を、一瞬たりとも厭わなかったと言い切れるか?
できないよな?
(……私は、つまり、昴に見つけられたかったの……?)
『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 新潮社 2014年9月1日 発行 P.376より引用)
もしもこの世界で枇杷が助けてと叫べば、昴はきっと来るだろう。
どんな犠牲を払っても、枇杷を救いにくるのだろう。
そういうふうにあいつを信じてしまったから、だから寂しかった。
昴が助けに行きたいのは、本当は枇杷ではないのだ。
昴が救いたいのはただ一人。もう消えてしまった、特別な女の子。
本物の清瀬朝野。二度と会えない、枇杷も昴も大好きだったあいつ。
『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 新潮社 2014年9月1日 発行 P.378より引用)

つまり、枇杷は死してなお自分の存在をかき消してしまうような朝野の存在を妬ましく思っているが、
それと同じくらい、朝野が好きな気持ちも抱いている。
この感情に罪というラベルを貼っているわけですね。
決定的なのは、海辺で死のうとしていた昴を引き留めたときのセリフ
「私がおまえを何度も呼び戻したのは、朝野の意思なんだよ。朝野はおまえを連れて行きたがってなんかいない。わた…朝野は、おまえが、好き。本当に好きだよ。だから生きて、元気になって、って。そう思ってる」
『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 新潮社 2014年9月1日 発行 P.445より引用)

ここで言い淀んだのは、昴は朝野というフィルター越しに枇杷のことを見ている。
それを逆に枇杷が利用して、昴を思いとどまらせるために、今度は枇杷が朝野というフィルターを通して語り掛けているからですね。
ただ、最後まで枇杷は自分の気持ちを覆い隠したまま、直接言葉にすることはありませんでした。
それは、朝野に対する罪の気持ちが残っているからですね。
枇杷と昴の別れ際
エピローグの前章で、昴が枇杷の花言葉を口にする前に、2人は握手をして別れ、1年の月日が経過します。
このシーンですが、枇杷の花言葉を知ると、どういうことか理解で来ます。
枇杷の花言葉は、「密かな告白」「愛の記憶」です。
握手は「密かな告白」。
そして、この物語の中での数日間は「愛の記憶」。

次のシーンは1年後からはじまるので、その時間軸からみると、これまでの物語はまさに「愛の記憶」なわけですね。
そしてラストシーン
1年の月日を経て、昴は再び枇杷のもとに現れます。
あいつがどういうつもりでもいい。
なんでもいい。
とにかく、今、この足は必死に駆け出してしまうのだ。自分は猛ダッシュで、走りださずにはいられないのだ。
それだけが事実で、そんな事実に直面して、
(……これって、罪なの?)
右目の奥がちくりと疼く。でもそんなことで止まりはしない。
(……とか、知ったことかよ!?しょうがないじゃん!だってあいつが来ちゃったんだもん!
私はそれで、もう走り出してるんだもん!もう止まらないんだもん!)いけないとか、許されないとか、知るか。
それならここに現れて、走り出したこの命を止めてみろよと枇杷は思う。現れてくれよ。目の前に。
(私はお前の敵だよ)
ーー現れてみろ。
(私はおまえお、力いっぱいぶち殺して、そして前へ進むから)
罪だというなら、罪でいい。
昴に会いたいこの気持ちが罪なら、私はそれでもいいよ。身の内の罪と戦ってやる。そういう設定でいいよ。
そうやって回そう、この世界を。
『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 新潮社 2014年9月1日 発行 P.467,468より引用)

昴への気持ちは、罪だとしながらも枇杷は走り出すことを決め、物語はこの一文で締めくくれらます。
「回転せよ!」
総評

というわけで、この物語は、「密かな告白」と「愛の記憶」の物語だと思うわけです。
枇杷の心理描写を丁寧になぞりながら読んでいかないと、なかなか理解しづらく、ラノベで見せられた竹宮ゆゆこワールドとは異なる趣があり、「こういう引き出しもあるんだ~」ととても関心した作品でした。
他にも新潮社から出版されている竹宮ゆゆこ先生作品があるようなので、いろいろと読んでみたいですね。
以上、『知らない映画のサントラを聴く』 感想 ネタバレ レビューでした!